あの原発事故から3年が経過しようとしている今、原発事故が風化されようとしています。 何もしないで国や地方自治体が何とかしてくれるだろうと期待しても、それは無理です。 被害者が声をあげることが必要です。声を上げてもよいのです。(上の2つの写真はいずれもウクライナのチェルノブイリ市にある公園で撮影したものです。右上の写真は原発事故によって消滅した町や村の名前のプラカードの列です)
【意見】
政府は,福島原発事故後,平成23年4月11日,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」といいます。)第18条に基づき,文部科学省に原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」といいます。)を設置しました。原賠法第3条では,原子力事業者の無過失責任を定めており,被害者は加害者である東京電力に対して故意・過失を立証する必要はありません。
しかし,被害者はなお,自らの被害の具体的内容について,主張立証責任が課せられています。ところが,福島原発によって生み出された被害は甚大です。被害者の数の多さ、被害者個人個人の多様性からくる被害の内容、被害額の多様にわたり、被害請求は複雑化しています。まさに私たちは,日本における損害賠償法の歴史上初めて大きな困難に立ち向かっているのです。
原賠審は,「原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務」を行う機関です。
ここでいう「一般的な指針」は,原発事故とそれによる被害との間に「相当因果関係」があり,加害者である東京電力に損害賠償させる基準であって,被害者による立証の負担を軽減する目的で定められたもののはずです。ところが、「相当因果関係」という抽象的な概念が基本的な線引き基準となっていること、及び被害者の実情を必ずしも把握していないことから、原賠審が設定した線引き基準については、様々な批判が浴びせられています。
また,原賠審は、もともと国の機関であり、加害者である東京電力の支払能力及び東京電力に実質的財政的援助をする国の立場に配慮して,被害者に十分な原状回復がなされていないのではないか,という根本的な不信感も根強いものがあります。
原陪審の下に設置された原子力損害賠償紛争解決センター(以下「ADRセンター」といいます。)における運用も,原陪審が作成した指針に過度に囚われて被害者の救済に後ろ向きになっているという失望感が出てくるようになり、裁判所に対する訴訟提起を誘発しているのではという懸念があります。
しかしながら、裁判はあくまで被害者の側に主張・立証責任を求める手続きであって,被害者の負担は重いというべきです。時間も相当かかります。原賠審及びADRセンターは,被害者救済という社会的使命を自覚し,被害者救済のために職務を全うすべきです。
弁護士 野村 吉太郎