福島人権宣言に関する Q&A



Q1.福島人権宣言は、何のためにあるのですか。

A1.福島の人たちの悩みは深いものがあります。目に見えない放射能汚染による健康被害を心配しながら生活を送らざるを得ない人、健康リスクを避けるために避難した人、同じ福島人でありながら分断を余儀なくされ、家族間において分裂寸前にまで追い込まれている人も少なくありません。

   このような苦しみを代弁し、かつ明日を生きていくための糧となる言葉・宣言が必要だということで打ち出されたものです。困難な現状に立ち向かい、生きていくための心の支えになることを目的としています。



Q2.福島人権宣言は、誰が作成したのですか。

A2.福島市内の在住者及び元在住者の人たちの声を聞きながら、それらを踏まえて、弁護士野村吉太郎が作成したものです。(福島人権宣言は、福島の皆さんのご意見や体験を伺いながら、適宜、改訂しています。)

  実際に福島市で放射線量を測定したり、福島在住の方のお話をお聞きするうちに、裁判や損害賠償請求の前に(あるいは前提として)、福島人権宣言が必要なのではないかと、強く思うようになりました。

  平成24年6月21日に成立した「原発事故子ども・被災者支援法」において、福島の人たちを救済する必要性を訴えるものはできましたが、まだ具体的な施策には反映されておらず、まだまだ物足りません。

  福島から避難した人、福島に残った人、どちらにも共通する思いがあるのではないでしょうか。その気持ちをすくい上げ、どちらの方でも今後勇気と自信を持って生きていけるだけの糧が必要です。その「心の支え」が「福島人権宣言」になるのではないかと考えています。

  福島の人たちは、本当は声を上げたいけれども、簡単には口に出せない様々な制約があります。悩みに打ちひしがれている人もいます。そして、原発事故から一年以上経過したいま、福島では、放射能問題で疲れきった人、普段の生活では何事もなかったように振る舞っていてもふと放射能問題に付いて考えると落ち込んでしまう人が少なくありません。平成24年10月22日付け「意見募集結果の概要」(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター)でも、福島県内に住み続けるかどうか家族で話し合った人が約半数いること、福島に居住することで子どもの教育面に不安を感じている人が約半数いる等の統計結果が出ています。

  福島の人たちにも人権があるという、当たり前の事実を再確認したいと思います。国際人権規約との関連についても考えていきたいと思います。



Q3.福島人権宣言をすることによって何が生まれるのですか。得をすることがあるのでしょうか。

A3.福島の人達の苦しみは、県外にはほとんど知られていません。もちろん津波被害を受けた浜通りの人たちの苦しみや悲しみ、強制避難区域の人たちが受けている苦難の数々についてはある程度報道がされています。一方、避難区域以外の放射線量の高さや、住民同士の選択によって分断が生じていたり、窓を開けるか、地元のものを食べるか、外で遊ぶかなど、日々のごく当たり前の生活にも選択を迫られ、迷いながら生きているということを、県外の方は知りません。中通りの人たちは福島に住み続けることを批判されて悲しんだり、憤りを感じている人が少なくありません。避難した人たちは、避難先の無理解に苦しみ、故郷から切り離されたという孤独と絶望感に襲われて悩んでいます。

  福島の方たちは、他県では当たり前のように享受出来る権利を失いました。どんな選択をした人でも、この福島人権宣言によって、諦めたり自暴自棄になったりしなくてもいいんだということを分かっていただければ、と思います。

  2012年5月14日以降の改訂版福島人権宣言では、外部被ばく・内部被ばくを避けるために福島の人たちが日々悩みながら生活していること、外部被ばくを避けるための施設、特に子供たちが思い切り遊べる室内プールや体育館などの施設が足りない(施設の開放もなかなかされない)、ホールボディーカウンター等の内部被ばくの程度を検査する機械やそれを受ける機会が絶対的に不足していることを訴えています(後に削除)。原発事故収束宣言以来、避難区域の解除や帰還の奨励等によって、放射線被ばくの事実についても消え去られてしまう可能性があります。被ばくしたすべての人たちが安心して医療を受けられるよう、行政は「被ばく者手帳」などを発行し、広く「原発事故被ばく者」の範囲を定義して、医療の無料化を推進すべきです。その原動力として、この「福島人権宣言」を利用してほしいと思います。

  この福島人権宣言の賛同者が多くなれば、広く世論に働きかける可能性も生まれます。大きな変化が起こせるかもしれません。希望を捨てる必要はありません。

   平成24年11月13日、朝日新聞の夕刊に「福島人権宣言」が取り上げられました。これによって、より多くの方に「福島人権宣言」を知っていただくことができました。しかし、「福島人権宣言」を批判をする方もいます。「福島」という題名で福島を代表したような表現をすることはけしからんだとか、「人権宣言」は無意味で、有害だという方もいます。「福島人権宣言」は、賛同者の宣言です。声なき福島人を応援する宣言なのです。平成24年11月11日に開催されたシンポジウムにおいて、パネリストの郡司さんから「人権に目覚める福島、憲法に目覚める市民を福島から発信していきましょう」との力強い言葉をいただきました。今一度、「人権」とは何か、「福島人権宣言」で取り上げている人権とはどういうものか考えていただき、人権に目覚めて、人権を行使していただきたいと思います。


Q3−2.福島人権宣言では、どのような憲法上の人権を念頭に置いているのですか。

A3−2.以下のような憲法上の規定を前提にしております。なお、憲法97条から99条までも重要な条項ですので、掲載しておきます。


日 本 国 憲 法(抜粋)


第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。


第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。


第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。

 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。


第九十八条  この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。



Q3−3.福島人権宣言と国際人権条約(社会権規約・自由権規約)の関係は?

A3−3.福島人権宣言であげている権利は、国際人権条約(社会権規約・自由権規約)の以下の条項が関係しています。

「我が家に住み続ける権利(居住の権利)」社会権規約11条

「健康に関する権利」社会権規約12条

「情報を求める権利」自由権規約19条2項



Q4.福島人権宣言の最後の行に、「私たちは立ち上がることをここに宣言します。」とあり

 ますが、「立ち上がる」という意味は、街頭に立ってビラ配りをしたり、シュプレヒコール

 をして拳を振り上げることなのでしょうか。

A4.「立ち上がる」という言葉は、まず第一に、福島の人が自分自身の挫折感、喪失感、絶望感から自分自身を立て直す、という趣旨で用いています。したがって、決して質問にあるような、街宣活動などを意味するものではありません。まず、自分自身の心の中で倒れている自分を立ち上がらせることが大事だと思っています。

  自分自身が立ち直ったら、まず自分自身が何をできるのか考えてみてください。そして、もっと前に踏み出して他の人にも「立ち上が」ってほしいと思ったとき、それぞれの人ができることをやればよいと思います。



Q5.自分なりに福島人権宣言を修正することは可能でしょうか。

A5.もちろん可能です。自分なりの人権宣言を考えることは非常に大事なことだと思います。ご提案があれば、それを事務局まで御連絡いただければ幸いです。それを参考にして、今後の修正案として使用させていただくことがあります。

  ちなみに、現在の福島人権宣言も、何度も改訂作業を経た上での文章ですし、今後も改訂してく予定です。もっとも、当初の案の方が好きだった、という方もおられましたので、当初の人権宣言案を「福島からの声」に掲載しておきます。



Q6.福島人権宣言は、福島だけのものではなく、全ての人に共通するものではないですか。

A6.実は、そのとおりです。福島だけでなく、放射能被害に悩む全ての人、さらには日本全国、いや世界の人にとって共通のものというべきでしょう。しかしながら現状は、福島の人にこんな人権があるのだということすら、おろそかにされ、無視されているのではないでしょうか。まず、福島の人が声を上げなければ、他の人は気づいてくれません。そこで、あえて「福島」を強調しているのです。福島の人が救われなければ、他の人が救済されることはあり得ないのです。

   ちなみに、放射能被害は沖縄の基地問題や水俣病被害等の公害問題と同じ構造と問題があるとの指摘もなされています。



Q7.福島人権宣言には、子どもの権利が不足しているのではないですか。

A7.福島人権宣言は、大人、子ども、高齢者、みんなに共通するものです。子どもの権利を強調しすぎると、大人や高齢者の権利はどうなる、という疑問が出てきます。もちろん、子どもが放射線に対して感受性が高いということは事実ですので、それに十分配慮をしなければなりません。改訂版では、そのことについて若干触れることにしました。



Q8.福島人権宣言は、福島の中通りの人向けのような気がしています。浜通りの人たちが共感できるような人権宣言にならないでしょうか。

A8.浜通りの人たちは、地震と津波によって甚大な被害を受けています。その自然災害による被害、その被害を回復するための社会的、法的な支援が遅れていることは事実です。これも人権侵害の問題です。ただし、この福島人権宣言は、原発事故によってまき散らされた放射性物質による被害に焦点を当てたもので、これについては浜通り、中通り共通の問題ですので、ご理解いただければ幸いです。なお、放射能問題のために強制避難命令が出され、津波や地震で被害を受けた人たちを救援できず、本来は助かる人の命を救えなかったという声もありました。

   今後浜通りの方々からのご意見を伺いながら改定を検討いたしますので、ご意見をお寄せください。



Q9.福島人権宣言に共感はしているのですが、賛同者として名前を出すのは気が引けます。どうしたらよいですか。

A9.賛同者のお名前を公表しない形での署名簿(政府や福島県に提出するもの)を新しく作成しております(メニューの署名簿をクリックして下さい)。



Q10.福島人権宣言について、他の人はどう思っているのでしょうか。

A10.「福島からの声」に随時掲載していますので、お読みください。シンポジウムに参加した人の声は、ツイッターやユーストリームで確認することができます。また、今後も福島人権宣言に関連するイベントを発表していきたいと思います。



Q11.福島人権宣言はいいと思うので、これをもっと広めたいと思いますが、どうしたらよいでしょうか。

A11. このホームページを印刷するなどして 口コミで伝えていただくなり、ご自分のブログでご紹介、リンクを張っていただいたり、ツイッターでつぶやいたりしてご紹介ください。また、今後、広報部などの組織を立ち上げて、さらに広報関係を強化できたらよいと思っております。福島の各市町村にひとつづつ、各避難者のいる地域ごとにそれぞれ支部ができたらいいと思います。支部長を買って出ていただける方を募集いたします。なお、2012年11月11日午後1時半から、福島テルサにて「福島人権宣言」のシンポジウムを開催しました。今後のイベントについてもさらに検討中です。なお、クロワッサン(マガジンハウス)12月25日発売及び「科学」(岩波書店)2013年1月号に「福島人権宣言」の紹介記事が掲載されました。



Q12.2012 年11 月26 日に東京で行われた、国連人権理事会特別報告者のプレス・ステートメント(達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する国連人権理事会特別報告者)も「福島人権宣言」と関連すると思われますので、その内容を教えてください。

A12.以下に、報告内容の一部を掲載します。


「原発事故の直後には、放射性ヨウ素の取り込みを防止して甲状腺ガンのリスクを低減するために、被ばくした近隣住民の方々に安定ヨウ素剤を配布するというのが常套手段です。私は、日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。にもかかわらず、一部の市町村は独自にケースバイケースで安定ヨウ素剤を配布しました。


災害、なかでも原発事故のような人災が発生した場合、政府の信頼性が問われます。従って、政府が正確な情報を提供して、住民を汚染地域から避難させることが極めて重要です。しかし、残念ながらSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による放射線量の情報および放射性プルームの動きが直ちに公表されることはありませんでした。さらに避難対象区域は、実際の放射線量ではなく、災害現場からの距離および放射性プルームの到達範囲に基づいて設定されました。従って、当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。


年間20 mSv という基準値は、1972 年に定められた原子力業界安全規制の数字と大きな差があります。原子力発電所の作業従事者の被ばく限度(管理区域内)は年間20 mSv(年間50 mSv/年を超えてはならない)、5 年間で累計100mSv、と法律に定められています。3 ヶ月間で放射線量が1.3 mSv に達する管理区域への一般市民の立ち入りは禁じられており、作業員は当該地域での飲食、睡眠も禁止されています。また、被ばく線量が年間2mSv を超える管理区域への妊婦の立ち入りも禁じられています。


ここで思い出していただきたいのは、チェルノブイリ事故の際、強制移住の基準値は、土壌汚染レベルとは別に、年間5 mSv 以上であったという点です。また、多くの疫学研究において、年間100 mSv を下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性がある、という指摘がなされています。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はないのです。


残念ながら、政府が定めた現行の限界値と、国内の業界安全規制で定められた限界値、チェルノブイリ事故時に用いられた放射線量の限界値、そして、疫学研究の知見との間には一貫性がありません。これが多くの地元住民の間に混乱を招き、政府発表のデータや方針に対する疑念が高まることにつながっているのです。これに輪をかけて、放射線モニタリングステーションが、監視区域に近接する区域の様々な放射線量レベルを反映していないという事実が挙げられます。その結果、地元住民の方々は、近隣地域の放射線量のモニタリングを自ら行なっているのです。訪問中、私はそうした差異を示す多くのデータを見せてもらいました。こうした状況において、私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。


健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。この点に関しては、日本政府はすでに健康管理調査を実施しています。これはよいのですが、同調査の対象は、福島県民および災害発生時に福島県を訪れていた人々に限られています。そこで私は、日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。これに関連して、福島県の健康管理調査の質問回答率は、わずか23%あまりと、大変低い数値でした。また、健康管理調査は、子どもを対象とした甲状腺検査、全体的な健康診査、メンタル面や生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査に限られています。残念ながら、調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。


自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。


政府は、原子力発電所作業員の放射線による影響のモニタリングについても、特に注意を払う必要があります。一部の作業員は、極めて高濃度の放射線に被ばくしました。何重もの下請け会社を介在して、大量の派遣作業員を雇用しているということを知り、心が痛みました。その多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。


報道関係者の皆様、


日本政府は、避難者の方々に対して、一時避難施設あるいは補助金支給住宅施設を用意しています。これはよいのですが、 住民の方々によれば、緊急避難センターは、障がい者向けにバリアフリー環境が整っておらず、また、女性や小さな子どもが利用することに配慮したものでもありませんでした。悲しいことに、原発事故発生後に住民の方々が避難した際、家族が別々にならなければならず、夫と母子、およびお年寄りが離れ離れになってしまう事態につながりました。これが、互いの不調和、不和を招き、離婚に至るケースすらありました。苦しみや、精神面での不安につながったのです。日本政府は、これらの重要な課題を早急に解決しなければなりません。


食品の放射線汚染は、長期的な問題です。日本政府が食品安全基準値を1kgあたり500 Bq から100 Bq に引き下げたことは称賛に値します。しかし、各5県ではこれよりも低い水準値を設定しています。さらに、住民はこの基準の導入について不安を募らせています。日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。


また、日本政府は、土壌汚染への対応を進めています。長期的目標として汚染レベルが年間20 mSv 未満の地域の放射線レベルは1mSv まで引き下げる、また、年間20~50 mSv の地域については、2013 年末までに年間20 mSv 未満に引き下げる、という具体的政策目標を掲げています。ただ、ここでも残念なのは、現在の放射線レベルが年間20 mSv 未満の地域で年間1mSv まで引き下げるという目標について、具体的なスケジュールが決まっていないという点です。更に、他の地域については、汚染除去レベル目標は、年間1 mSv を大きく上回る数値に設定されています。住民は、安全で健康的な環境で暮らす権利があります。従って、日本政府に対して、他の地域について放射線レベルを年間1mSv に引き下げる、明確なスケジュール、指標、ベンチマークを定めた汚染除去活動計画を導入することを要請いたします。汚染除去の実施に際しては、専用の作業員を雇用し、作業員の手で実施される予定であることを知り、結構なことであると思いました。しかし、一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。


また、日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。これは、日本政府の計画に対する避難者の信頼構築にもつながります。


訪問中、多くの人々が、東京電力は、原発事故の責任に対する説明義務を果たしていないことへの懸念を示しました。日本政府が東京電力株式の大多数を所有していること、これは突き詰めれば、納税者がつけを払わされる可能性があるということでもあります。健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。


訪問中、被害にあわれた住民の方々、特に、障がい者、若い母親、妊婦、子ども、お年寄りなどの方々から、自分たちに影響がおよぶ決定に対して発言権がない、という言葉を耳にしました。健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。こうした参加を通じて、決定事項が全体に伝わるだけではなく、被害にあった地域の政府に対する信頼強化にもつながるのです。これは、効率的に災害からの復興を成し遂げるためにも必要であると思われます。


日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。こうしたプロセスには、健康管理調査の策定、避難所の設計、汚染除去の実施等に関する参加などが挙げられるでしょう。


この点について、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」が2012 年6 月に制定されたことを歓迎します。この法律は、原子力事故により影響を受けた人々の支援およびケアに関する枠組みを定めたものです。同法はまだ施行されておらず、私は日本政府に対して、同法を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。これは日本政府にとって、社会低弱者を含む、被害を受けた地域が十分に参加する形で基本方針や関連規制の枠組みを定める、よい機会になるでしょう。」


出典

http://unic.or.jp/unic/press_release/2869/